SMAとは
からだを動かすとき、筋肉の動きは運動神経によって調節されています。SMAは、この運動神経が変化または消失していくことで、筋肉の力が弱まり、運動機能が障害される病気です。
SMAの特徴として以下が挙げられます。
- 進行性の筋緊張低下、筋力低下や筋萎縮(筋肉がやせ細る)がみられる
- 呼吸不全を合併することが多い
- 症状は左右同じようにあらわれる
- 上肢よりも下肢の症状が重い
- 知能は正常であることが多い
SMAを有する患者さんの割合は10万人に1人といわれています[1]。日本での患者数はわずか1千人程度で[2]、非常に稀な疾患です。そのため、SMAは小児慢性特定疾病や指定難病に指定されており、これらの制度によってさまざまな公的支援を受けることができます。

SMAのタイプと症状
SMAの未治療の自然経過は、「発症の時期」と「到達できる最も高い運動機能」によって4つのタイプに分けられます。

タイプ別の特徴
筋肉の力が弱まったり、筋肉がやせ細ったりといった症状の程度は、タイプによって大きく異なります。
生まれてすぐ発症したSMAでは、大人になってから発症したSMAに比べて症状の進行が早く、重症となるケースが多く、早めの治療が大切です。


SMAの原因
SMAの患者さんは、運動神経生存遺伝子(SMN遺伝子)※1の欠失または変異※2(持っていないまたは変化している)によって、運動神経の生存に必要なSMNタンパク質が十分につくれなくなります。その結果、運動神経の働きを保てなくなり、筋緊張低下、筋力低下や筋萎縮(筋肉がやせ細る)といった筋肉の変化があらわれます。
※1 運動神経の生存や機能維持に必要なタンパク質を産生する遺伝子です。
※2 遺伝子の変化には、含まれている遺伝情報が通常と異なる場合と、遺伝子自体が存在しない場合があります。

SMN遺伝子にはSMN1遺伝子とSMN2遺伝子があります。SMN1遺伝子がメインの遺伝子として十分な量のSMNタンパク質をつくり、SMN2遺伝子はバックアップとして働くため、SMN1遺伝子が欠失または変異している(持っていないまたは変化している)SMA患者さんは、SMNタンパク質を少ししかつくることができません。
SMAの治療は、いかに正常なSMN1遺伝子と同じように十分な量のSMNタンパク質をつくることができるようになるかが鍵となります。

SMAと遺伝
ヒトの遺伝情報は、細胞の核内にある染色体の中に収められています。染色体は、父親と母親、それぞれから受け継いだ2本の染色体が1つのペアをつくっています。全部で23ペア(46本)存在しており、これらは「常染色体」と「性染色体」の2種類に分けられます。
常染色体には1番から22番まで番号がついており、5番目の染色体の長腕と呼ばれる部位の13という場所(5q13)にSMAの原因遺伝子(SMN1遺伝子)が存在しています。

SMAは遺伝子の疾患です。
父親と母親が保因者で、それぞれから受け継いだSMN1遺伝子の両方がどちらも欠失または変化している場合にのみ、そのお子さんはSMAを発症します(両親が保因者の場合、1/4(25%)の確率でお子さんがこの病気になります)。父親または母親から受け継いだSMN1遺伝子のうちどちらか1つだけ欠失または変化している場合、SMAは発症せず、保因者となります。保因者は一生涯SMAを発症することはありません。

SMAの診断
SMAが疑われる症状として、筋緊張低下、筋力低下や筋萎縮(筋肉がやせ細る)がありますが、これらの症状はSMA以外の神経や筋肉の病気にもみられます。原因を確かめるために、さまざまな検査を行いますが、SMAの確定診断は遺伝学的検査※が最も有用です。
SMAは早期診断・早期治療が重要ですので、SMAが疑われる症状があった場合は、なるべく早く遺伝学的検査を行うことが推奨されています。
※ SMAが疑われる場合に行われる遺伝学的検査は保険適応となります。

SMA以外に筋緊張低下や筋萎縮があらわれる病気としては下記のような疾患があります。
- 糖原病Ⅱ型(Pompe病)
- 先天性ミオパチー
- 遺伝性ニューロパチー
- 先天性筋ジストロフィー
- 先天性筋強直性ジストロフィー
など
-
伊藤万由里ほか.:東女医大誌. 83, E52, 2013.
-
難病情報センター. (http://www.nanbyou.or.jp/entry/5354)